施設内でチェックをアップデート PDCAサイクルと5G点検
2025-11-30

社会福祉法人友愛十字会 特別養護老人ホーム友愛荘 施設長 鈴木 健太
「虐待の芽チェックリスト」によるPDCA
「共に生きる」を法人理念に掲げ、身体障がい者や高齢者の福祉向上に努めてきた社会福祉法人友愛十字会。なかでも東京都世田谷区の特別養護老人ホーム「砧(きぬた)ホーム」は、「働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受けるなど法人を象徴する存在です。砧ホーム施設長として虐待防止・権利擁護の仕組みを強化したのち、現在は法人内の友愛荘で横展開に取り組むのが鈴木健太施設長です。
閑静な住宅街にたたずむ友愛荘は、法人内でも最大規模の特別養護老人ホームです。設立から51年という長い歴史をもちますが、令和3年に現在の町田市南大谷に新築移転し、真新しい施設で再スタートを切りました。
鈴木施設長が砧ホーム施設長時代から引き続き力を入れているのが、企業などの業務改善に用いられるPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルです。東京都福祉保健財団「虐待の芽チェックリスト」をもとに、利用者のプライバシーへの配慮や言葉遣いなど、15項目からなる職員アンケートを実施しています。
例えば4月に回収されたアンケート用紙は、5月の虐待防止検討委員会で分析評価を行います。結果をもとに重点テーマを決定し、6月にポスターを掲示するなど虐待防止週間を展開します。実際に施設で発生した事例をもとにターゲットを定めるので、より実践的な啓発活動となります。次のアンケートで効果測定を行い、これを繰り返すことで年4回のPDCAサイクルとなります。
アンケートグラフを見ると、この取組の継続によって全体的に有訴率が下降していることがわかります。分析を続けた結果、「数値が上がっているところは新しい職員が入職したタイミングだったり、感染症のクラスターが起きた時期だったりと、傾向が掴めるようになり、対策もしやすくなりました」と鈴木施設長は話します。

能動的なチェック体制を築く5G点検
砧ホームにおいてPDCAの実施により、目に見える形で有訴率が低下するという成果を上げましたが、一方で鈴木施設長は課題も感じていました。どんなに有訴率が下がっても、ゼロにはならなかったのです。そこで友愛荘で新たに開始した取組が、製造業などの5S点検を参考にした5G点検です。この点検は、虐待の主な種類である、身体的虐待、放置・放任による虐待、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5つの「GYAKUTAI(虐待)」の芽が発生していないかを担当者がチェックする取組です。
「虐待の芽チェックリストは自己点検ですからある意味、一方通行の評価です。実態まではわかりません。そこで、虐待防止検討委員会が現場を回り能動的にチェックすることにしました」と鈴木施設長は話します。
委員会メンバーは毎月、ご利用者の居室や共用部を回り、空調は適切か、ナースコールは手の届く位置にあるか、転倒防止を気にするあまりご利用者の移動を制限していないかなどを点検します。チェックの際には、問題点だけでなく、評価できる部分も挙げていきます。「悪い部分だけでなく、いい部分も伝えることが大事」と鈴木施設長は考えます。
5G点検は、支援方法の見直しにつながるだけではなく、ポジティブな評価も伝えることで、職員の意識向上や施設の雰囲気づくりにもよい変化をもたらしました。「多くの職員から『できた、できなかったという結果だけでなく、意識を高める機会になった』と声が挙がっています。現場を歩いても、職員がよりよい支援を工夫する様子や、ご利用者が笑顔で活き活きとした姿を目にする機会が増えました」(鈴木施設長)。
今後は委員会メンバー以外の職員も点検に加わるなど、工夫を重ねていく予定です。「多くの職員が5G点検に関わることで、多角的なチェックが可能になるとともに、虐待防止に対するリテラシーの底上げを図ることができる」と期待を込めます。

職員同士でよい支援を見つけ合う「にやり・ほっと」
内閣総理大臣表彰を受けるなど職場環境が高く評価される友愛十字会ですが、それでも人材確保は簡単ではありません。しかし法人では、早くから採用数減少を見すえていました。過去にも近隣に福祉施設が急増し、職員確保に苦慮した時期があったのです。
「当時はまだ今のような人口減少時代ではありませんでしたけれど、これからは採用も少数精鋭の世のなかになっていくなと感じました。少ない人数しか採用できないのであれば、質の高い職員に集まってもらいたいと考えました」と鈴木施設長は振り返ります。時代の変化を敏感に察していた友愛十字会では、いち早くノーリフティングケアを導入。介護リフトなどの道具を使ったケアから、介護ロボットの時代へ、そしてICTの時代を迎えました。現在も積極的にDX化を推進しています。
支援の質向上と人材定着をねらいとした、友愛十字会のユニークな取組の一つに「にやり・ほっと」があります。「ヒヤリ・ハット」とは逆に、思わず笑顔になるような「よい支援」に着目し、職員同士で評価・報告する試みです。報告内容には「○○さんのこういうケアがよかった」「勉強になった」というメッセージが一緒に挙げられ、全職員が閲覧できるようにしています。さらに、必ず鈴木施設長がコメントを書き込み、法人理念や権利擁護の視点を加えてフィードバックすることも特徴です。
「いかに今いる職員が働きやすく、また働きがいのある職場として継続していけるかが大事です。称え合う関係性のなかで、いいところも、修正すべきところも伝える意識ができて、心理的安全性が向上していると思います。専門職同士がお互いをリスペクトしながら、より組織力が高まっていくのが理想です」と鈴木施設長は話します。
多職種協働原理による組織力の向上や、職員の専門性向上が今後の事業継続の鍵だと鈴木施設長は考えています。全ての職員が等しく権利擁護の意識をもち、遠慮することなく改善点を意見したり修正したりできる関係性をめざしています。