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インタビュー

連携と目が届く環境づくりで子どもの変化を見逃さない

横浜に位置する児童養護施設「日本水上学園」の歴史は、戦前の1942年にさかのぼります。当時、港湾設備が整っていない時代、大型貨物船から荷物を沿岸に運ぶ水上生活者の多くは定住せずに暮らしていました。そのため、学校に通えない子どもたちも少なくありませんでした。創設者である伊藤伝氏は、水上生活者の子どもたちを集めて学校を開設し、これが法人設立のきっかけとなりました。現在、日本水上学園は90人の定員で、マンション形式のユニット型施設として運営されています。今回は、同児童養護施設の事務長へ子どもの権利を守るための体制と職場づくりについてお聞きしました。
社会福祉法人日本水上学園 児童養護施設日本水上学園 事務長 増谷吉太郎

目次

職員同士がフォローし合い、目が行き届く職場へ
私たち日本水上学園では、「個別担当制」と「複数指導担当制」を採用しています。 「個別担当制」とは、あらかじめ各児童の担当職員を決めておく制度です。担当職員は、児童にとって「何かあったときにすぐに相談できる存在」として、日頃から信頼関係を築くことに努めています。子どもたちがちょっとしたことでも相談しやすいよう、日々の関わりを大切にしています。 しかし、担当職員だけでは、すべての意見を吸い上げることが十分でない場合もあります。そこで、当学園では、「複数指導担当制」を取り入れています。「複数指導担当制」とは、新入職員と4~5名の先輩職員がチームを組み、フォローをする体制のことです。入職1年目の職員も、経験豊富な職員と同様に担当の児童を受け持つことになります。新人職員に分からないことがあれば、まずは同じチームの先輩職員に相談し、対応方法を学びます。さらに、困ったことがあればリーダー職員がサポートし、解決が難しい悩みについては園長が対応します。このように、新人職員には相談できる相手が複数いる体制を整えています。これは、児童と職員の関係性だけでなく、職員同士の良好な関係性を築く上でも重要なポイントです。どの職場でも人間関係の悩みはつきものですが、一対一の閉じた人間関係を避けることが、その解決策の一つと考えています。 こうした取り組みの結果、当施設職員の平均勤続年数は11~12年ほどと、業界内でも高い水準を維持しています。
施設内外の連携で子どもの権利を守る
子どもたちには、施設の職員以外にも、相談できる人たちがいることを日頃から伝えています。まず、児童相談所のケースワーカーとの面談機会を設け、より児童が意見を言いやすい環境を整えています。担当職員とケースワーカーは連携しながら、支援のあり方を一緒に模索しています。 さらに、「子どもの権利擁護委員」の存在を児童へ周知しています。当学園では、第三者委員会を「子どもの権利擁護委員会」と呼んでいます。この委員会は、弁護士、児童精神科医、学識経験者、地域の民生委員の4名で構成されています。ただし、「困ったことがあれば『子どもの権利擁護委員会』に相談できますよ」と伝えるだけでは、顔のわからない相手に相談するのは難しいのが現実です。そこで、子どもたちが相談したいと思ったときに抱え込むことがないよう、委員会の説明や委員との顔合わせの機会を年間行事に組み込んでいます。 具体的には、6月と2月の年2回、子どもの権利擁護委員が施設を訪問します。その際には、施設の児童全員を集め、「学園生活の中で困ったことや、なかなか人に言えないことがあったときは、何でも相談してくださいね」と伝えます。このように、施設職員やケースワーカー以外にも相談できる存在がいることを子どもたちに知らせています。
情報共有で子どもの変化にいち早く気づく
ここ10年ほどの間に、子どもの権利がこれまで以上に重要視されるようになっていると実感しています。例えば、一時保護が必要ではないかという場面では、子どもの同意が求められるようになりました。それは当然のことではありますが、このような変化を通じて、社会全体の意識が確実に変わってきたと感じます。 児童養護施設での仕事においては、子どもたちの小さな変化を見逃さないことが何より重要です。そのためには、職員同士が意見を言いやすい雰囲気を作り、情報をスムーズに共有できる環境が欠かせません。情報共有の場を定期的に設けることは、意見を出しやすい職場環境づくりの一環としても大きな役割を果たしています。 当学園では、月に1回、職員学習会を実施しています。この学習会では、子どもたちのケースを報告し、今後の支援の方針について職員全員で共有しています。また、外部研修に参加した職員は、研修の内容をこの学習会で共有することがルールとなっています。単に研修報告書を回覧したり、資料を共有したりするだけではなく、職員全員が顔を合わせる場を設けることで、実際のケースや想定されるケースに基づいた具体的な意見交換が活発に行われています。例えば、「こういう場合はどう対応すべきでしょうか?」といった質問が出され、職員同士で議論を深めることで、実践的な支援方法を見直す機会が生まれます。このような取り組みにより、単なる研修報告にとどまらず、日頃の支援を振り返り、改善するための重要な場となっています。 約20年前に施設を建て替えた際、設計士に「死角のない施設」を依頼しました。目の届かない場所では不適切な事例が発生しやすいため、子どもたちがどこにいても複数の職員の目が行き届くよう配慮しています。また、人材不足も不適切な事例の発生に繋がる要因の一つです。職員が長く勤めることで、子どもたちとの愛着関係を築きやすくなるため、採用活動や人材の定着に向けた取り組みに日頃から力を入れています。職員が安心して仕事を続けられるよう、メンタルヘルスケア対策など、より一層力を入れていきたいです。
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