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インタビュー

子どもたちが“大切にされている”と実感できるケアを目指して

社会福祉法人チルドレンパラダイス 児童養護施設子山ホーム 施設長 吉田正浩

目次

チームで取り組む、柔軟な支援のかたち
千葉県いすみ市、小高い丘の上に広がる児童養護施設・子山ホーム。見下ろせば、雄大な太平洋がどこまでも続き、潮風がやさしく吹き抜けます。自然豊かな環境の中、子どもたちは庭を元気いっぱいに駆け回り、笑い声が施設中に響いています。 子山ホームは現在、本園6ホーム地域に2ホーム全部で8ホームに分かれています。かつては住み込み職員が多く、いわば「家族のような生活」を24時間体制で支えていましたが、近年は働き方の多様化や労働環境の改善を背景に、通いの職員が主流となってきました。これにより、支援のあり方も変化を求められるようになりました。 大きな変化のひとつが、職員による「チーム支援体制」の導入です。以前は、一人の職員が一人の子どもを長期的に受け持つ「担当保育士制」が基本でしたが、現在では複数の職員が連携して子どもに関わるスタイルに移行しています。 この新しい体制には、子どもと職員双方にとってのメリットがあります。たとえば、関係性の「相性」への配慮。固定的な一対一の関係では、時に互いにとって負担になり、子どもが逃げ場を失ってしまうこともあります。複数の大人が関わることで、子どもは自分に合った安心できる職員を自然に見つけやすくなり、職員側も過度な負担を抱えることなくチームで役割を補い合うことができます。
安全委員会方式によって、園全体に浸透する意識
子山ホームでは、約10年前から「安全委員会方式」を取り入れています。これは九州大学名誉教授・田嶌誠一先生が提唱した手法で、施設内に潜在するパワーバランスの偏りを見直し、あらゆる暴力の根絶をめざすものです。 安全委員会は、園長や現場職員などの内部委員に加え、児童相談所、学校関係者、地域の保育園長など、外部の視点を持つメンバーで構成されています。毎月、子どもたちを対象にした実名アンケート(月1アンケート)をもとに安全委員会を実施し、暴力(性暴力含む)等を「うけた」「振った」「聞いた」「した」など、日常の中で気になったことや違和感のあった出来事を拾い上げています。寄せられた声は職員間で共有され、再発防止や支援の見直しにつなげられます。 この方式の背景には、入所してくる子どもたちの多くが暴力的な環境の中で生活をしてきた、という現実があります。そうした子どもたちにとっては、叩く、怒鳴る、威圧する、暴言を吐くといった行動が「解決手段」として体に染みついていることも少なくありません。だからこそ子山ホームでは、「暴力ではなく、言葉で気持ちを伝える」ことの大切さを、繰り返し伝え続けています。 「叩かない。口で言う」「優しく言う」「相手が悪くても叩かない」。これらは、安全委員会方式が提唱する“魔法の言葉”。子どもたちも職員も、これらの言葉をしっかり覚えており、日々の行動へとつながっています。
振り返りと学びによって、子どもたちとさらに向き合う
子どもにとって安心できる環境を築くには、日々の関わりを振り返る仕組みが欠かせません。子山ホームでは、定期的な「職員セルフチェックリスト」や、「子どもから見た職員アンケート」の実施など、内省と相互理解を促す取り組みを継続しています。 セルフチェックリストでは、子どもへの関わりで良かったと思う行動、不適切だったかもしれない言動などを記入します。結果は園長が集計して全体の傾向を共有することで、施設全体としての課題や強みを可視化します。また、子どもによる職員評価アンケートでは、「職員は自分のことを見てくれていると感じるか」などの問いに子どもたちが率直な声を寄せます。こうした“子ども目線”のフィードバックは、職員の意識を高め、支援の在り方を問い直す大きなきっかけとなっています。 また、事例検討の場では、様々なケースが挙げられ、積極的な意見交換が交わされます。特に最近では、問題行動のある子だけでなく、一見問題がないように見える子こそ、将来に向けてどんな支援が必要か、そうした視点を職員間で共有し、支援の偏りを防ぐ工夫も重ねられています。 さらに、権利擁護を専門とする外部講師を招いた研修、安全委員会の役割や対応を再確認する学びの機会も設けられています。職員の声から始まった、「大きな子どもへの身体的介入(ホールディング)について学びたい」との要望を受けた研修もその一つです。こうした現場の問いや気づきが、学びにつながる仕組みとなっています。 子ども一人ひとりに丁寧に向き合うために。支援する側が「自分を振り返ること」を大切にする姿勢が、子山ホームの支援の土台になっています。そして一番大切なことは職員が「してあげた」自己満足感ではなく、子ども達が「大切にされている」と言う実感が持てるケアです。子山ホームでは、施設全体が一丸となって、真摯に取り組んでいる最中です。
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