子どもも大人も「自分らしく」いられる保育
2025-04-30

社会福祉法人太陽のちから りんごの花保育園 園長 ⼤瀧智⼦
一人ひとりの「思い」を尊重する
福岡市西区にある「りんごの花保育園」は、子どもも大人も、自分らしく安心して過ごせる保育環境づくりに取り組んでいます。定員60名という規模を活かし、園内では子ども同士、職員同士の顔が見える距離感の中で、日々の関わりが丁寧に積み重ねられています。
この園が大切にしているのは、「一人ひとりの“思い”を尊重する」こと。そのために、子どもたちが自ら選び、決める機会を積極的に設けています。たとえば、遊びや食事の時間に「何をしたいか」「どこで過ごしたいか」「どれだけ食べたいか」といった意思を尊重し、大人は「こうしなさい」と決めつけずに見守るスタンスを徹底しています。
子どもたちは一人ひとり異なる存在です。発達のスピードも、できることとできないこともみんな違います。そんな違いを当たり前のこととして受けとめながら、「今日はこれができたね」「こんなふうにお友だちに教えてくれたね」と、保育者たちはその子のペースに寄り添い、小さな成長を見逃さずに一緒に喜んでいます。
そうした肯定的なまなざしが、子どもたちにも伝わり、「自分は大切にされている」という実感へとつながっていきます。保育者に褒められるだけでなく、子ども同士の中でも「○○ちゃんって、こういうところがすごいよね」と良いところを言葉にする文化が根づいているのも、りんごの花保育園の特長です。

日頃から情報発信と情報共有に力を入れる
りんごの花保育園では、安心して子どもを預けられる環境を築くために、日々の情報発信と情報共有をとても大切にしています。それは、保育の見える化を通じて保護者との信頼関係を深めると同時に、職員間で価値観を共有する土台にもなっています。
外部への発信として力を入れているのが、ブログや園通信の発行です。園で起こった子どもたちの何気ない一場面を丁寧に切り取り、「どんな思いを大切にして保育をしているのか」「子どもの行動をどう受け止めているか」といった保育者の視点を文章にして届けています。
園内での情報共有も、日々の保育をより良くするための大切な仕組みです。気軽にやりとりできるチャットツールを活用し、日常のちょっとした気づきやエピソードを記録・共有することで、保育者同士が感情や経験をともにすることができています。忙しい業務の合間でも、こうしたツールが職員間のつながりを保つ大きな支えとなっています。
加えて、月に一度行われる勉強会では、各職員が実際の保育の中で気づいたこと、悩んだこと、印象に残った子どもの行動を題材にして、事例検討を行っています。話し合いでは、「こう言ってみたらどうか」「この声かけはとても良かった」といった意見が活発に交わされます。他の人の視点に触れることで、自分一人では見落としがちな子どもの姿に気づく機会にもなり、視野が大きく広がっています。
以前は「気になること」の報告が多かった事例検討会も、今では「成長したこと」「良かったこと」が多く挙がるようになりました。日々の発信と共有が、園全体のまなざしをさらに肯定的なものへと導いています。

働きやすく、より専門性の高い保育園を目指す
りんごの花保育園では、良い保育を実現するためには、職員が心身ともに余裕をもって働けることが欠かせないと考えています。そのため、働きやすい環境づくりにも積極的に取り組んでいます。
正規職員だけでなく、非常勤職員や福岡市の子育て支援員制度を活用した支援スタッフの配置を工夫し、業務の分散化を図っています。子育て支援員は保育士資格がなくても従事でき、雇用にあたっては自治体の補助制度も利用可能です。こうした多様な人材を柔軟に配置することで、職員一人ひとりの負担を軽減し、残業や持ち帰り仕事の発生を極力抑えるよう努めています。
その日の中で子どもとしっかり向き合い、子どもが「今日も楽しかった」「自分は大切にされている」と感じて帰ってくれることを一番に大切にしています。保育の成果や外に見せるための「良いもの」を追い求めすぎると、大人も子どももストレスを抱え、負の循環が生まれてしまいます。そうした状況に陥らないよう、常にバランスを意識した運営を心がけています。
また、より専門性の高い支援を実現するために、園では新たに児童発達支援事業所も開設しました。発達障害のある子どもたちと関わる中で、「もっと専門的な知識や支援が必要だ」と感じたことがきっかけです。現在は開設から半年ほどが経過し、まだ試行錯誤の段階ではあるものの、日々の実践から学びを深めながら、地域の子どもと家庭にとってより良い支援のあり方を模索し続けています。
保育の現場においては、「専門性」と「働きやすさ」の両立こそが、継続的で質の高い保育を支える基盤です。りんごの花保育園は、現場で働くすべての人がやりがいを持ち、笑顔で子どもたちと向き合える保育園として、これからも歩み続けていきます。
