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福祉現場での取り組み

二度と同じことを繰り返さない 傷害事件からの再生

社会福祉法人愛光園

目次

愛光園で起こったこと
全国の社会福祉法人による権利擁護の実践を取り上げてきた当サイト。今回の取材は「虐待事件をどこかで他人事だと思っていた我々と、同じ轍を踏んでほしくない」という厳しい言葉からはじまりました。2020年、ご利用者への傷害容疑で元職員が逮捕された社会福祉法人愛光園です。 自然豊かな愛知県知多半島で50年の歴史を重ねてきた愛光園は、地域の福祉を力強く支える存在であり、15カ所の拠点と450人以上の職員を擁する大規模法人でもあります。制度に先駆けてサービスを展開してきた「愛光園ブランド」とでも呼ぶべき実績があり、その姿に魅せられて入職する職員も多くいました。拠点のひとつ「地域居住サポートセンター」と「地域生活支援センターりんく」が管轄するグループホームは17カ所あり、1ホームあたり定員4~7名の家庭的なグループホームに、日中はお仕事を通じて自立を目指している方から、より多くの支援を必要とする重症心身障がいのある方まで暮らしています。最重度の障がいのある方を積極的に受け入れることは、法人の使命として強く意識してきました。そんなグループホームの一つで、同一加害者による4件の傷害事件が起きました。4名の被害者はそれぞれ小腸に穴が開くなどの大怪我をして病院に運ばれ、うち1名が亡くなられました。注目すべきは、2019年3月から2020年4月にかけて断続的にご利用者の受傷があったのにもかかわらず、誰も職員による加害だと気づけなかったことです。「元職員だけの問題ではありません。我々法人にも非があったのです」と阿久比町立もちの木園の堀田学事業所長は強調します。事件があったのは別の拠点でしたが、堀田事業所長は管理職として法人全体を知る立場でした。事件後、何が問題だったのか、これから何をすればいいのか、検証と実践を進めてきました。と堀田事業所長が事件を振返りつつ現状を話してくれました。
何が発見を遅らせたのか
事件当時、まず判断を妨げたのは正常性バイアス(非常時にリスクを過小評価し、心の平静を保とうとする心理現象)でした。医師から原因不明の症状を知らされたとき、受傷ではなく疾病だとみなが思い込んだのです。「私たち支援者は簡単に権利侵害ができる立場であり、誰しもその可能性があることへの認識の薄さがありました。病気だという都合のいい解釈に飛びついたのです」と堀田事業所長は振り返ります。福祉の現場には意欲と熱意をもって入職する職員も多く、性善説を信じがちです。目の前にいる人への信頼と尊重は、対人援助の基本的姿勢ともいえます。しかし「人は弱いもので、環境次第でよい方にも悪い方にも振れてしまう」という視点が決定的に欠けていたといいます。グループホームは、その構造や支援体制の特性から、職員一人ひとりにかかる負荷が大きくなりやすい業態です。特に夜間帯において、支援度の高い利用者を極少数で支援する状況が続くと、疲労やストレスが蓄積し、瞬間的に判断力が低下することで虐待リスクが高まる可能性があります。こうした業態特性への理解が十分であれば、断片的に上がってきた情報についても、より早い段階で関連づけて捉えることができたのではないかと、堀田事業所長は後悔をにじませます。当時も権利擁護研修は実施していたものの、職員一人ひとりが真に「自分事」として受け止める雰囲気は十分とは言えず、他県で発生した死亡事例についても十分に共有されていない状況でした。「ここでは事件は起きないという意識があった。その時点で、すでにリスクは高まっていたのだと思います」と堀田事業所長は振り返ります。 法人本部の機能不全もありました。「ないものはつくれ」の精神で、地域のニーズに応えるように法人規模を拡大してきた結果、リスクヘッジが追いついていなかったといいます。本部が全体を管理・統制するという意識が弱く、よくも悪くも各事業所の独立性の高い運営が続いていました。事件の前後、違和感に気づいていた職員も複数いましたが、その声は全体に共有されませんでした。管理職同士も同じで、他事業所の運営に口を出しにくい法人文化がありました。 どんなに重い障がいでも「愛光園なら」と頼られることは誇りでしたが、同時に弱点にもなっていました。「ワンストップでやってきたことの自負がいつしかおごりとなり、人に託すことが下手になり、抱え込む体質にもなっていました。一つの法人、一つの事業所で抱え込むことがいかにリスクが高いか。やはりチームで、地域で支えていくことが大事なんだと改めて気づかされました」と語る堀田事業所長の言葉には重みがあります。
二度と同じことのない未来に向けて
事件後、第三者委員会による提言を受け、数々の再発防止策が練られました。法人共通の虐待対応フローチャートの作成、通報義務とご利用者保護の徹底、不適切事案発生時の法人による聞き取り、各拠点ごとで開催される虐待防止委員会や法人倫理委員会の開催など内容は多岐にわたります。どれも目新しい先駆的な取組というわけではありません。しかし堀田事業所長は「決められたことを粛々と、淡々とやっていく、これが本当に大切だと気づいたのです。ベーシックなところをしっかり押さえないと、我々のような大きな法人は大事なことを見逃してしまう」と自戒します。虐待につながる不適切なケアがあれば、小さなことでも報告する姿勢を徹底した結果、通報件数が激増しました。事件後にむしろ通報件数が増えています。そのプロセスにはいくつもの葛藤があります。実際、そのことがきっかけで退職を選んだ職員もいます。「苦しい状況のなか、我々は事件を起こした法人の責任として、風通しを改善して自浄能力を高めよう」と堀田事業所長は法人の決意を語ります。自治体の通報窓口が真摯に対応してくれたことは幸いでした。大府市・東浦町・阿久比町では愛光園が通報を繰り返す中で、虐待の芽を早期につみ、利用者・職員・事業所を守るための共同作業がはじまっています。法人本部と管理職、あるいは管理職同士の連絡が密になったことも変化の一つです。メールやSNSで適時かつ迅速に情報を共有し、会議でも言葉をオブラートに包むことをやめて忌憚のない意見が飛び交います。意見されることを敬遠する空気はなくなりました。「ようやく一枚岩になれました」と堀田事業所長は実感しています。虐待防止というと、研修や委員会、対応フローといった制度面に目が向きがちです。しかし法人として今後重視していきたいのは「その人にとってどのような支援がよいのか」をチームで考え続けることです。日々の振り返りや事例検討を積み重ねることが、虐待を未然に防ぐ土台になるといいます。同法人は設立当初から、重度の障がいがある方を多く受け入れてきました。一方で、人材確保は年々厳しさを増し、ご利用者の高齢化や重度化への対応が後手に回る場面もあります。特に入所施設やグループホームは、夜勤や一人職場など第三者の目が入りにくい環境にあり、長期化したコロナ対応による疲労も重なっています。人材確保とともに、辞めない職場づくりは喫緊の課題です。そのなかで、地域推進連携会議を活用して法人外の視点を取り入れるほか、管理職が法人の枠を越えたつながりを持ち、他法人の実践から学ぶ取組を進めています。再生への道のりは、まだ始まったばかりです。堀田事業所長は「二度と同じことを起こさないために一人ひとりが自分事として考えるきっかけになれば」と語ります。
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