利用者の権利を守り、信頼を築く支援のかたち
2024-12-27
埼玉県の荒川のほとりに位置する障害者支援施設「山鳩よりい」。ここでは、職員一人ひとりが利用者に寄り添い、信頼関係を築く支援を実現するため、職員が力を合わせてよりよいコミュニケーションが取れるように試行錯誤を重ねています。今回は、施設内で虐待防止マネジャーを担う島田典証さんにお話を伺いました。
社会福祉法人埼玉療育友の会 障害者支援施設山鳩よりい 生活支援課課長 島田典証
「どんなことに利用者が喜ぶのか」
利用者とのコミュニケーションについては、声や表情を手掛かりに、最善の方法を模索する日々です。経験を重ねた職員であれば、「当たり前」のことが、入職したばかりの職員にとっては、「わからない」ことばかり。山鳩よりいでは、日々の支援において、利用者一人ひとりの尊厳を尊重しながら、心の距離を縮める工夫を重ねてきました。
その一例が数年前に作成した「鉄板!つかみはこれでOK!!」です。この資料は、利用者が喜ぶ話題や心を開いてくれるきっかけとなる方法を職員間で共有する目的で作成されました。
利用者一人ひとりの背景や好みに基づいた具体的な会話の内容やコミュニケーションのコツを出し合い、職員同士の「投票会議」が開かれました。例えば、「Aさんは食べ物の話題に興味を示すことが多いので、食べ物をきっかけに会話を始めるといい」「Bさんには、昔好きだったテレビ番組の話をすると笑顔になることが多い」といった提案が次々に寄せられました。
意見を集めた後、投票で優れたアイデアを選定。得票数が多かった職員は表彰を受ける仕組みで、職員同士の士気を高める効果もありました。この投票会議では、単に良いアイデアを見つけるだけでなく、「一人ひとりの利用者さんとしっかり向き合い、何が喜びや興味につながるのかを深く考える」という意識が全体に浸透していきました。
そして、「鉄板!つかみはこれでOK!!」は、作成プロセスだけではなく、完成後も大いに役立ちました。特に新入職員にとって、この資料は利用者との信頼関係を早期に築くための大きな助けとなりました。本資料をもとにスムーズなコミュニケーションの糸口をつかみ、その中で徐々に自分らしい接し方を編み出していくことができたのです。
「鉄板!つかみはこれでOK!!」は、「あの時の笑顔、すごく良かったよね」「こういう声かけだとうまくいんだ」といった、職員と利用者とのポジティブなコミュニケーションが生んだ結晶です。
You Tube動画を活用してわかりやすい研修づくり
山鳩よりいでは、年2回、虐待防止研修と身体拘束適正化研修を実施しています。その中で、職員全員に「虐待防止職員セルフチェックシート」を記入してもらい、自由意見も募ります。これを集計・分析することで、経年変化を追えるようになり、施設の課題を継続的に把握しています。この分析内容や改善案は研修内で伝達して、より良いケアに繋げています。
また、研修には実用的で理解しやすい材料を使用しています。法制度や臨床心理の知識を発信するYouTube動画を活用し、親しみやすく伝える工夫をしています。さらに、こうした動画を活用しながら、ワークショップ形式で、自分たちの支援を振り返るなど、現状に応じた課題把握に努めています。
特に参考になったのは、動画の中で取り上げられていた「ディレイテクニック」のコツです。ディレイテクニックとは、自分の意に反する相手からの行為や言葉に反射的に反応せずに、怒りがピークに達すると言われる6秒間を乗り切るためのアンガーマネジメントのテクニックです。意識的に「待つ」。すると、利用者が本当に発信したいことはなんなのか、一層汲み取ることができるようになりました。
責めるのではなく、改善に向けて
不適切なケアを防ぐため、些細な指摘でも確認し、問題を責めるのではなく改善策を考える姿勢を共有しています。感情的になりがちな場面でも、「なぜ?」という、責められていると感じやすい問いではなく、「防ぐためにはどうすればよいのか?」、という改善策に重きを置くアプローチを大切にしています。また、年2回の個別支援計画の時期に合わせて、職員の目に留まりやすい場所へ、意思決定支援ガイドラインの特に重要な部分を掲示するなど、意識づけの強化にも気をつけています。利用者が安心して過ごせる場を提供するため、施設全体で力を合わせています。