やりがいだけにしない、福祉現場の意識改革
2025-05-28

社会福祉法人平徳会 こしがや希望の里 総務課 遠山和樹
徹底した「丁寧な言葉づかい」で守る尊厳
埼玉県越谷市にある社会福祉法人平徳会は、「生きる喜びをすべての人に」という法人理念のもと、主たる対象を知的に障害のある方とし、生活を支える様々な福祉サービスを提供しています。その中心となる障害者支援施設「こしがや希望の里」には、重度の知的障害のある方々50名が入所し、穏やかで落ち着いた毎日を送っています。
この施設では、虐待や権利侵害の防止に向けて、「敬意をもって接すること」を日々の基本姿勢としています。特に重視しているのは、言葉づかいです。すべての利用者に対して敬語を用いることを職員全員に徹底しており、新たに入職した職員にもOJTを通じて丁寧に指導しています。
「知的障害があっても、ひとりの大人として敬意をもって接するのは当然です。私たちは利用者の方々を“お客さま”ととらえ、接しています」と施設運営を担当する遠山さんは語ります。言葉づかいの緩みが関係性の乱れにつながり、やがて虐待につながることもあるという考えから、職員の態度や姿勢には特に気を配っています。
また、職員が「利用者と一緒に過ごす時間」も大切にしています。散歩や会話を通じて関係性を深める時間を意識的につくることで、信頼の土台が育まれているといいます。

利用料への意識が支援の質を変える
福祉の仕事は、しばしば「やりがい」や「想い」を軸に語られます。しかしその一方で、「お金」や「サービスの価値」といった視点で語られる機会は、他業界と比べると圧倒的に少ないのが現状です。
そのことに強い違和感を覚えたのが、異業種から福祉の世界に飛び込んだ遠山さんでした。「私自身、やりがいや人の役に立ちたいという想いに惹かれてこの仕事に就きました。でも、利用者の方々は毎月数十万円の利用料を支払ってくださっている。その事実をもっと意識する必要があると感じました。」と振り返ります。
実際、平徳会の施設では、現場職員の中に「自分たちが提供しているサービスの利用料を知らない」という人も少なくありませんでした。そうした状況を変えるために、施設では独自の研修を導入。具体的な利用料を示しながら、「この金額に見合うサービスを提供できているか?」を職員一人ひとりに問いかけました。
この取り組みによって、職員たちの意識は大きく変わっていきました。「利用料を知ったうえで支援にあたるようになると、今まで以上に、細かな部分にも責任感がにじむようになりました」と遠山さん。やがて施設全体で「サービスの質を高めよう」という共通認識が生まれ、支援の丁寧さも一段と増していったといいます。
「やりがい」と「責任」。この二つの視点を両立させてこそ、真に利用者に寄り添う支援が実現できる。そんな考え方が、平徳会の現場には息づいています。

法人内外で連携し、福祉の未来を拓く
虐待を未然に防ぐためには、制度やルールだけでなく、職員同士の「気づき合い」が欠かせません。社会福祉法人平徳会では、日頃から「声をかけ合う文化」が根づいており、支援の中で違和感や懸念があれば、すぐに職員間で情報を共有できる体制が整えられています。
情報共有の効率化に向けた取り組みも進めています。現在はLINEを用いて日々の連絡を行っていますが、今後は公式のチャットツールを導入し、より安心して相談できる、風通しの良い職場づくりを目指しています。
「一つの法人だけが変わっても、未来の福祉は変わりません」。そう語る遠山さんは、他法人や地域団体との連携を通じて、福祉全体の質を高めるための実践を続けています。平徳会で使用しているお金や利用料に関する虐待防止研修の資料も、希望する法人には提供可能とのこと。「ゼロから教材を作るのは大変。必要な方がいれば、ぜひ活用していただきたいです」と話し、支援の知見を惜しみなく共有しています。
気づき合い、学び合い、つながり合うことで、より安心で質の高い福祉の未来を育てていく。平徳会の取り組みは、その実践例として多くの学びを投げかけています。資料の提供をご希望の方、あわせて情報共有などを希望される方は、ぜひ平徳会までお問い合わせください。
